宿泊したペンションの朝食は、ルーマニアの伝統食材がいっぱいの素朴ながらボリュームたっぷりなものでした。チーズ3種、ハム3種、トマトやキュウリなどが乗ったプレートと、パンに2種類のザクスカ、ジャムなど。ザクスカとは、野菜を煮込んだペーストのような保存食で、義母も秋にたくさん作って瓶詰めにしたものをドイツまで送ってくれたりします。朝食の中で特に感激したのが牛乳で、酪農家から搾りたてを受け取り、ペンションで煮沸したと言うだけあって新鮮そのもの。濃厚ながら癖は全くなく、私は普段牛乳を飲むと速攻でお腹を下してしまうのですが、そう言った問題もなかったので驚きました。義実家や義兄夫婦も、ローカルマーケットで買った牛乳を、家で煮沸して飲んでいましたが、味が全然と言っていいほど違い、やはり鮮度というのは全ての食品に大きく影響するんだなと思いました。

朝食のあとはコーヒーをいただき、少しのんびり過ごして出発しました。まず向かったのはMocăniță (モカニツァ)と呼ばれる観光用蒸気機関車。ペンションでもらったパンフレットでは発車時刻が10時半となっていたので、10時に向かいましたが、最初の便は既に出発してしまったとのこと。2便の出発時間を確認して、乗り場周辺の観光地に向かいます。
下調べをしていなかった私ですが、今回訪れたかった場所の一つに、イースターエッグのミュージアムがありました。ブコヴィナ地方は、イースターエッグの装飾、染色に関しても有名で、中でも数々の受賞歴を誇る世界的アーティストのLucia Condrea(ルチア・コンドレア)さんが営むミュージアムに行ってみたいと思っていたのです。モカニツァ乗り場のそばにあったので、まずはミュージアムに向かうことになりました。道沿いに大きな卵のモニュメントがあり、路地を進むとミュージアムにたどり着きます。ただし、ミュージアムの外観などには目立った看板はなく、一見普通のお家に見えるので注意が必要です。コロナ禍でもあったので開館しているか不安でしたが、なんと庭仕事をしていたご本人が扉を開けてくださいました(!)

館内に入ると、すぐに展示品が目に入りますが、まずルチアさんの義理の息子さんが英語を交えて詳しく説明して下さいました。館内には、入り口から壁一面にルチアさんの作品がずらり。その様子はまさに圧巻であり、一つ一つの装飾もかなり凝っていて、柄のインスピレーションとなった伝統的な柄の古いカーペットやアンティークレース、お皿なども合わせて展示してあります。
このイースターエッグの装飾には、木の棒の先に針が括られた専用の道具が用いられます。その針の先に溶かしたロウをつけて、卵にロウで柄を描き、ロウが乾いたら染色液に浸して染色し、その作業を数度繰り返すことで、カラフルな卵が完成するのです。最後にロウを全て拭き取り、繊細で鮮やかに染色された卵が誕生します。日本のろうけつ染めや、インドネシアのバティック染などと同じ技法ですね。ルチアさんの染色する卵は、頑丈であるという観点からアヒルの卵が多いそうですが、そのほかにも白鳥のものやウズラ、大きいものだとダチョウの卵を用いたものもありました。その全てが本当に美しく繊細で、まさに芸術品。一見プリントしたように正確に見えますが、よく見るとハンドペイントならではの細かな揺らぎを見ることができるのもクラフト感が増して、より芸術度を高めているように思います。

染色の柄には、定番とも言えるいくつかの伝統的な柄もありますが、ルチアさんはトラディショナルな作品はもちろん、ご自身の新しいアイデアを投影した、数多くの柄、デザインを誕生させています。例えば、レースにインスピレーションを受けた作品や、染色の方法に一手間加えることで、アンティーク作品のような黄ばみを加えた手法、モダンな幾何学模様など、そのいくつかのデザインや手法で、特許を持っていらっしゃるそうです。イースターエッグへのあくなき探究心が伺えます。
美術館1階、入り口付近にはショーケースとイースターエッグの染色方法を紹介するビデオ、次の部屋にはショーケースと子供たちが体験できるテーブルがあり、その奥にもショーケースと、一階だけでもかなり見応えがあります。さらに2階には、ルチアさんの作品に加え、ルチアさんが世界中の競技会や展覧会に参加する中で、他の国の方と交換した世界各国のイースターエッグの展示、地元のアーティストの作品を紹介するコーナーなどもあり、その違いを見るのもお楽しみポイントと言えるでしょう。世界各国から集まった卵のショーケースには日本人の方の作品もありました。おそらく、日本にはイースターエッグという習慣はないと思いますので、何かのきっかけで卵の染色を始めた方々だとは思いますが、どの作品にも日本的な柄やデザインが施され他の国々の卵に負けず劣らず、しっかりと存在感を示していました。
出口付近ではルチアさんの作品を購入できる売店もあります。しかし、ルチアさんの作品は一度作れば、予約で全てが売れてしまうほど人気があるそうで、数はあまり残っていませんでした。私は、伝統的なモチーフと、赤・黄色・黒・白のカラーリングが施された卵を一つ購入することができました。大きさや柄によっても価格は変わりますが、およそ50€〜100€くらい。教会などで売っているものは、1つ2€程度なので、ルチアさんの作品価値がいかに高いかが分かります。しかし、その繊細さ、そして正確さを実際に目で見ると、全く高いと感じさせない魅力に溢れているのです。単なるイースターエッグの飾りではなく、一つの芸術として我が家の家宝にしたいと思っています。

通常は写真撮影は禁止ですが、私が日本人だからか、もしくはほかに来館客がいなかったから、「好きなだけ撮影して下さい」と言っていただきました。また、売店ではルチアさんの娘さんに対応していただいたのですが、日本語で書かれたルーマニア料理のレシピ本やノベルティのグッズもプレゼントしてくださいました。娘さんご夫妻はとっても気さくで温かく、色々なことを詳しく説明してくださり、ルーマニア人のホスピタリティの高さを感じました。このエリアを旅する予定がある方には、本当におすすめの美術館です。

次に訪れたのは、ミュージアムの近くに位置するMoldvita Monastery (モルドヴィツァ修道院)です。モルドヴィツァ修道院は、ルーマニアでもっとも古い修道院の一つで詳しい起源は判明していません。最初の石造の教会は、1402年〜1410年の間に建設されたそうですが、地滑りのため崩落してしまいました。現在の姿は、1532年にシュテファン大公の子どもの一人によって再建されたもので、ブコヴィナ修道院同様、高い壁と防御用の塔を持つ、一見要塞のような様相を呈しています。モルドヴィツァ修道院は、街、そして文化の中心地として発展し、シュテファン大公からも商業的特権など、数々の特権を享受していたそうです。教会堂の内外壁ともにブコヴィナ修道院と同じく、美しいフレスコ画が保存されており、世界遺産の一つに登録されています。長い歴史の中で、修道院が廃止されたこともありますが、時を経て復活。1945年から15年の歳月をかけて修復され、現在の姿を留めているのです。
ルーマニア正教では、しばし教会堂の外でキャンドルを灯す燭台を目にすることがあります。日本でもお寺などで見かけるようなもので、ガラスの扉を開けると蝋燭を灯すための小さな棚が設置されています。この燭台は、祈りの対象の生死によってキャンドルを灯す場所が違うので注意が必要です。向かって左側が現在も生きている人物に対して、向かって右側が死者に対して祈る際にキャンドルを灯します。キャンドルは教会堂内で販売(3Lei程度/80円程度)されています。

このほか、敷地内にはシュテファン大公の石像やミュージアムも設置されています。残念ながらミュージアムは開いていませんでした。入り口付近の売店でお土産を買い、モカニツァの出発時間が近付いてきたので駅に向かうことにしました。

モカニツァの出発駅ではまずチケットを購入します。出発時間の30分前からしか販売は開始されないのですが、私たちが駅に着いた時にはもう列に並んでいる人たちがいました。この観光列車は、民家のそばを通りながら村を抜け、片道約1時間。山間でしばし休憩後、また同じコースをたどって出発駅まで戻ってくると言う、3時間ほどのアクティビティです。しばらく列にいると、遠くから汽笛の音がしてモクモクと黒煙を上げながら1便のモカニツァが戻ってきました。観光列車ではありますが、座席は通常の列車の形態ではなく、屋根はあるものの窓などはないため、開放感抜群です。他の観光地があまり混み合っていなかったため、モカニツァも空いているかなと思っていましたが、出発時間ギリギリまでたくさんの乗車希望者が乗り込み、10両ほどの列車はみるみるうちに満席に近い状態に。私たちは早めにチケットを購入できたこともあり、最後尾を確保。当日は天気に恵まれ、清々しい風を感じながら乗車を楽しむことができました。
民家スレスレを通る際には、実際の人々の暮らしを垣間見、列車に向かって手を振ってくれる村人もいます。また、民家の奥にはなだらかな丘、そして急な斜面が広がり、放牧された牛や羊が草を食む様子が伺えます。新緑の季節と合間って、あたりはほぼ緑一色。のんびりとした山間の暮らし、自然を眺めながら、ゆっくりと列車は進んでいきました。途中、あわや事故にと言うくらい車との距離が近い場所もあるので、それはそれでルーマニアらしさを感じることもできました。1時間ほど進むと、折り返し地点に到着。折り返し地点では、ルーマニアの民族衣装に身を包んだスタッフが、伝統料理を提供する屋台が軒を連ねていました。炭火焼きの香ばしい匂いがあたりに立ち込め、お昼を食べていなかったこともあり急激に空腹を感じます。中央では、2人の男性が楽器を奏で、周りのテーブルでは人々が思い思いに食事を楽しみ、小さなお祭りのような賑わいを見せていました。
スープや豆料理、サルマーレなど、魅力的な逸品にひかれながらも、私たちが選んだのはミティティと呼ばれるソーセージとハンバーグの合いの子のような肉料理と、チーズを中に入れて丸く成形したママリガを炭火で焼いたブルズと言うもの。時間が限られていたので、チャチャっと食べてお土産屋さんをのぞいていると、あっという間に出発時間になりました。この折り返し地点の休憩は40分ほどでしょうか。もう少し時間があれば、周囲の散策などもできましたが、諦めてまた電車に乗り込みます。来た道をまたゆっくりと帰るだけですが、景色も少し違ってみえ、なんだかんだとても楽しかったです。その後、義兄家族と合流し、ペンションへ帰宅。
この日は、ペンションでディナーをとりました。鶏肉のキノコチーズクリームソースという料理。ホワイトソースにチーズを混ぜたソースはかなり濃厚で、グリルした鶏肉の旨みを引き立てていました。付け合わせはママリガ。ママリガたくさんいただいて、しばらくはいいやと思ってしまいました。その後、深夜まで語り合って一日を終えました。



























































